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読書感想(書籍) アルジャーノンに花束を

翻訳の妙に唸るSFの名作――
アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)早川書房
 2015年春の「TBS系金曜ドラマ」枠で久々にドラマ化されました。脚本監修は野島伸司(脚本:池田奈津子)、主演・山下智久です。
 原作の世界観をベースに、いっそすがすがしいほど、まったく新しい物語に仕立ててありますので、TVドラマをみてから原作本に進むと、かなり違和感があるかもしれません。
 私が原作を手にしたのは、SF作家・瀬名秀明氏の関連サイト(現在は閉鎖)で、「よく読まれているSFは何か」というアンケートの結果を見たからでした。堂々1位の栄冠に輝いていたのがこの作品、ならば読んでおくべきだろう、と手にしたのです。
 
■あらすじ
 32歳のチャーリィ・ゴードンは、パン屋で働く向上心の強い青年でした。ただ、残念なことに、彼には「知恵遅れ」というハンディがありました。
 彼の向上心に目をつけた研究者達が、彼に「賢くなれる」脳外科手術を施します。同じ手術を受けたネズミのアルジャーノンと競い合いながら、いつしか彼は一般人としての知能レベルを遥かに凌駕する天才へと変貌していきました。
 賢くなることで、周囲の人に好かれることを期待していたチャーリィ。でも、彼の前に現れた現実は、ひどく残酷なものでした。さらに彼自身にも、過酷な運命が襲いかかります。
 
■感想
 この作品は、知恵遅れの青年・チャーリィを主人公にした一人称で書かれています。「知恵遅れの」青年としての世界観、言葉づかいで物語は始まり、手術によって彼の知能が向上しはじめると、物語を綴る語彙も表現力も、彼の知能レベルに合わせて変化していくのです。
 この難しい設定を、最後まで説得力のある描写で描ききった原作者もすごいのですが、それを日本語で違和感なく翻訳しきった翻訳者・小尾芙佐氏もすごい! 日本語としてなじむように、かなり意訳しているはずで、それが原作のもつ説得力を少しも損なわないどころか、見事な作品として仕上げています。
 翻訳モノ作品を読むとき、翻訳者を意識したことはなかったのですが、この作品で、存在の大きさを思い知らされました。
 お話としては、チャーリーの圧倒的な知的成長の後ろで、おずおずと手探りで進む精神の成長、性的な成熟が愛おしく、人は知性だけではないということが伝わってきます。幕切れは切ない。それでも、チャーリーがチャーリーであり続けることが伝わる最後の一文は、輝いています。SFとしてだけではなく、人間賛歌として見事な作品です。
 

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