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読書感想(書籍) 舟を編む

「言葉」に人生を捧げたオタク達の讃歌――
舟を編む(三浦しをん)光文社
 本屋大賞1位(2012年)という華々しい看板を掲げ、映画化もされました。監督は石井裕也、主演・松田龍平、宮﨑あおいです。
 映画は、原作に忠実に作られています。映画を見てから原作を読みなおしても、違和感がまったくありません。見事です。原作の空気を、監督をはじめとしたスタッフや俳優の方々が愛したからだと思いました。
 単行本初版は2011年で、今年(2015年) 文庫本化されましたが、この本はぜひ、単行本を手にとってほしいと思います。書影ではわかりませんが、実物は辞書らしい装丁になっています。そして海をイメージさせる藍色の表紙を、小さな銀色の舟がいく。趣(おもむき)に、好感をもちました。
 
■あらすじ
 幼い頃から言葉の魅力に取り憑かれていた荒木は、辞書編纂の道に人生を捧げました。しかし、そろそろ定年間近。いまだ衰えぬ、言葉への想いを託すべき後継者をみつけ、育成しなくてはなりません。白羽の矢が立ったのは、営業部のお荷物、馬締光也。対人能力は幼稚園児レベルの彼ですが、言葉に対しては鋭いセンスを持っていました。
 辞書編纂という、一般にはなじみのない世界で、地味に、そして狂おしいほど情熱的に、「言葉」と向きあう人々の姿を背景に、そこで一心に頑張り続ける「馬締クン」の成長と恋愛模様が描かれます。
 
■感想
 登場人物の性格描写――というより「生態」描写。これがとても見事です。いわゆる「キャラが立っている」というヤツなのですが、主人公の馬締はモチロン、師である荒木、そして監修の松本先生まで、その姿は(いい意味での)オタクです。「辞書づくりが常に頭にある人間」とはこういうものか、と唸らされる奇矯な行動の数々。寝ても覚めても食べていても、すべてが辞書づくりに結びつく。その熱が周囲も巻き込み、大きなうねりとなってひとつのモノ――辞書へと昇華する。そのダイナミズムに引きこまれました。
 また、ウブな「馬締クン」君のドジっ娘ならぬドジ男ぶりにも萌えます。恋愛にしても友情にしても、人との距離の詰め方が、ぎこちない。でも、確実に一歩一歩進む姿は、辞書づくりという地味で忍耐強い作業を強いられる世界に生きる彼らしい。
 物語の冒頭から結末までの間に流れる歳月が長いのも特徴です。それほどの時間をかけてようやく一冊の辞書が出来る。その間に、担う人材は世代交代し、ある者はこの世さえも去っていく。後に続くものは、想いを受け継ぎ、粛々と手を動かし続ける。そしてまた、次代へと引き渡す。「人の営み」という言葉が浮かぶ作品でした。

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