読書感想(書籍) めろめろ
どうしようもなくズレた人々の、生き様を包み込む暖かな眼差し――
めろめろ(犬丸りん)角川書店
あれ? この人、小説も書いているんだ、と好奇心に引っ張られて手にした一冊でした。アニメ「おじゃる丸」で知られる著者の短編集です。マンガも小説も、という多才ぶりに今後が楽しみだと思ったのですが、残念ながら早逝されていました。
■あらすじ
十二本の短編の中で、もっとも心に残ったのがこの作品です。
・恋しき人の顔は見えねど
さえない容姿と口下手が災いし、彼女いない歴=年齢 のサラリーマン・正平、二十八歳。ネットは彼に、素敵な「彼女」を与えてくれました。
ネット越しの交際が始まります。正平のくすんでいた日常は、急にキラキラと輝き始めました。でも、心の距離が近づくにつれ、相手の姿を見たい、会いたい、もっと相手のことを知りたい……新たな悩みが湧いてきます。
■感想
ネット越しの交際では、相手の姿や素性がわからない。これが絶妙の出会いをもたらしました。主人公・正平が出会った二人は、どちらも真面目ないい人でしたが、最初にリアルで姿を見ていたら、交際という選択肢はなかっただろう素性の人達でした。
姿が見えないからこそ、相手の本当の姿(心)が見えた、その逆転性が面白い。でも、それ以上に、二人目に出会った女性に、素直に心を打たれました。女心が匂いたつ魅力的な女性です。いつまでも、彼女のような心根をもちたい、と思わされました。
表題「めろめろ」は、文庫化にあたって改題されたもので、元の題は「偏愛」です。
偏った愛――愛の指向性や熱量が常識はずれな人々の、時に滑稽だったり切なかったりする姿が、独特の軽妙な語り口調で綴られている作品達。そこに、著者の人間に対する暖かい眼差しを感じることができました。