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読書感想(書籍) 利休にたずねよ

利休を利休たらしめたものは、何だったのか――
利休にたずねよ(山本兼一)PHP研究所
 映像は歌舞伎俳優・市川海老蔵主演、田中光敏監督で第37回モントリオール世界映画祭・最優秀芸術貢献賞受賞、原作小説は直木賞受賞、と注目を集めました。原作を読んでから、映画を見ました。
 原作は連作短編で、各短編の主人公の目から見た利休を、追いかけていきますが、映画では一本のストーリーとしたため、場面転換がやや忙しく、各登場人物の立場や抱えている「情念」がわかりにくい。原作を読んでから映像を見るほうが、わかりやすいと感じました。
 とはいえ、映画の楽しみのひとつに、利休の名物目利きがあります。特に織田信長に差し出した名物の意匠は見事。また、道服で佇む海老蔵・利休の姿は絵になります。このあたり、映像だからこその美しさでした。
 
■あらすじ
 堺の商人から身を起こした茶頭・千利休は、今、太閤秀吉から切腹を申しつけられている。
 いよいよその日、未明。妻の宗恩は、利休の中に棲む女の存在を問い質した。日々の生活に、その女の影があったわけではない。それでも女の勘が宗恩に問い質させた。
 
■感想
 利休と縁の深い織田信長、豊臣秀吉、細川忠興、古田織部、古渓宗陳などから見た利休の一面が時系列を行ったり戻ったりしながら開陳されていきます。そこに現れる利休は、美にぬかづく求道者であるとともに、何が美か、美という価値を決める独裁者でもありました。
 美の世界における天下人・利休と、政道における天下人・秀吉。二人はたがいに相手を見下しつつも畏怖と敬意を抱いている――まず、利休と秀吉の関係性を、とても面白く読みました。
 利休は「美」の目利き、秀吉は「人間」の目利き。もしかしたら利休のすごさと恐ろしさを一番理解していたのは、秀吉だったのかもしれません。だからこそ、秀吉は利休に降伏を求め、利休は頭を下げずに切腹を受け入れた。二大巨頭の生きざまのぶつかり合いに、息を飲みました。
 そして、利休の茶が単なる侘び寂びではなく、その中に命の艶を孕んでいる、とした解釈と、そこに利休の想い人の存在を絡めたのは、納得感がありました。
 冒頭に帰れば、切腹の日の未明、嵐の中で妻の宗恩が問うたのは、単なる女の嫉妬からだけではなかったのかもしれません。
 
 利休にたずねよ――利休を利休たらしめたものは何だったのか。
 タイトルも含め、読み応えのある作品でした。

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