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読書感想(書籍) 重力ピエロ

重力の枷を超え、家族愛が跳躍する――
重力ピエロ(伊坂幸太郎)新潮社
 書店で、文庫が平積みにされていました。寒色を背景に、飛びあがっているのか落下しているのかわからない人形の表紙、想像力を刺激するタイトル、スッと心に入り込みました。実際に手にしたのは、初めて目にしてから何年も後なのですが、やはり、印象的な表紙とタイトルが忘れられなかったから、手にしたのだと思います。
 映画化もされていて、主演、加瀬亮、岡田将生、監督は森淳一です。こちらも見ましたが、ストーリーは原作のダイジェスト版といった感じ。でも原作の中にある、映像化したら印象的だろうなと思える場面を、映画は壊すことなく見せてくれました。
 
■あらすじ
 主人公、泉水には、父親の違う弟・春がいます。春の出生は呪わしい事件によるものですが、春自身の存在は、家族にとってかけがえのないものでした。
 何事にも几帳面で、自分で設定したマイ・ルールは絶対の春、性的なことに極度の嫌悪を示す弟。彼の苦しみに気づいている泉水は、ある計画を胸に秘めていました。しかし、春がしかけてきた推理ゲームにかかわるうちに、春もまた動きだしていたことを知るのでした。
 
■感想
 俗に「伊坂節」と言われる語り口が全開です。今近の名作や著名人の名言をひき、ちょっとしたうんちくを惜しげもなくちりばめていく。ウィットに富んではいるが、冗長で迂回を繰り返す会話の数々。
 作中、主人公の泉水が「回りくどいくらいに世間話を広げて、あたかもついでの思いつき、という装いで本来の用件を切り出す」と述懐する部分がありますが、まさに作品全体がそのような形になっています。そして、一見些末に見えたエピソードのほとんどが、実は冗長でも迂回でもなく、物語の造形にとって重要な要素だったのだと、読了してから気がつきました。
 著者自身が記す「いい言葉」もそこかしこにあり、胸の中に残ります。なかでも
――本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ
 は、名言。そう言える人間の強さと、そこに至るまでの葛藤がせまってきます。
 クイズのような推理要素はありますが、ミステリーというより家族小説。泉水と春の家族は、ひとりひとりが誠実でしなやかで強い。やや影のあるエンディングですが、家族というものを考えさせる良作でした。

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