自作小説(一次創作) | 読書感想 | 雑記

読書感想(書籍) ヨハネスブルグの天使たち

人間の業を写し取る、可憐なロボットたち――
ヨハネスブルグの天使たち(宮内悠介)早川書房
 著者、宮内悠介氏はデビュー作「盤上の夜」でいきなり直木賞候補、翌年に刊行したこの「ヨハネスブルグの天使たち」で再び直木賞候補となり、惜しくも受賞は逃しましたが、SF界のビッグタイトル「第34回日本SF大賞特別賞」を受賞しました。そのためか、刊行当時は、あちこちの書店で平積みになっていた記憶があります。
 短編集で、どの作品にも「DX9」という日本製の少女型ロボットが出てきます。
 自分自身が、ロボットメーカーを舞台とした小説を書いていたこともあり、「ロボット」という言葉に反応して、つい手に取ってしまいました。
 2015年現在、映像化はされていません。過酷な戦場や災害現場が舞台になっているため、なかなか難しいものがありそうです。今後可能性があるとすれば、深夜枠のアニメでしょうか……。
 
■あらすじ
・ヨハネスブルグの天使たち(表題作)
 空爆の下、若者たちがやりきれない今を酒と音楽で紛らわせる街、ヨハネスブルグ。幼い見てくれで相手を油断させ、軍からジープや銃を奪う「強盗」が、スティーブの稼業です。内戦による戦争孤児である彼が、同じく孤児のシェリルとともに暮らしているビルは、治安の悪化とともに逃げたしていった日本企業の耐久試験施設。そこでは二千七百体の少女型ロボットDX9 が、日々、自動運転のコンベアで頂上から落とされる落下試験が繰り返されていました。その中の一体と、いつも目が合うことにスティーブは気づきます。
 
■感想
 極限の生活の中で、主人公・スティーブが戦災孤児から始まった人生を、汚れ仕事に手を染めつつも切り拓いていく前半は、前向きな力強さがあります。しかし後半、厳しい現実の中で翻弄される姿が痛々しい。
――人の信仰を決めるのは場所であり座標だ
 そう嘯く彼は、人生の折々で自らの信ずるものを変えてきたのですが、最後にたどり着いた結論――彼がいた場所とは何だったのか、については納得のいく生々しい回答でした。生きるということは、本当はこんなにもシンプルなことだったのに、と思うと切ない。
 
 全編をとおしてSFガジェットとして登場するのは少女ロボットDX9 と「人格転写プログラム」。
 愛らしい声で歌う「歌姫」だったはずのDX9 たちが、ある作品では滅びゆく民族の「コピー」となり、また別の作品では歩く地雷・武器となる。平和な世界で富裕層を楽しませるために作られた可愛らしい少女ロボットも、置かれた場所によってこんなにも用途が変わり末路が変わる。彼女たちに、人間の業の深さと哀しさが写り込んでいるように思いました。
 そして、この本の中で、一番心に残ったのが
――ひとりの死は悲劇だが、百万人の死は統計だ(ジャララバードの兵士たち より)
 このせりふでした。数字に置き換えた瞬間、どんな事象も統計になりえるのですが、一人ひとりの死をただの数字としか見れなくなった時、人は人の心を失くすのだと思いました。

 南アフリカ、アフガニスタン、イエメンなど、日本人にとってはあまりなじみのない物語舞台をリアルに描く硬質な筆は、著者の半生がニューヨークにあったことも影響しているのかもしれません。人間の業を描いた、読み応えのある一作です。

読書感想 TOP | 書籍 TOP


応援しています







Since 2015/06/05

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system