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読書感想(書籍) 戦争をしない国 明仁天皇メッセージ

戦後七十年。今、「人間・天皇」からのメッセージを読む――
戦争をしない国 明仁天皇メッセージ(矢部宏治)小学館
 毎年、八月になると、いわゆる「戦争本」が書店を賑わせます。原爆、終戦、と節目の日が続くこと、夏休みの課題図書として指定されることなどが、大きいのでしょう。ほとんど風物詩の感さえある光景なのですが、並ぶ数多(あまた)の本の中で、この本は異色でした。
 明仁天皇――政治的な発言はできないという意味で「表現の自由」をもたない立場にある方の、戦争に対するメッセージだというのです。
 目を引きました。次の瞬間、ぜひ読みたい、と手にしていました。
 
■概要
 皇太子時代の各種記録に残る言葉と、即位してからの折々に発表される「おことば」たちが、美しい写真とともに並びます。そして言葉の背景を、宮内庁でも政府関係筋でもない著者が、紐解いてゆきます。
 
■感想
 世界に皇室は数あれど、今の日本の皇室ほど変わっているものはない――長くそう感じていました。イメージですが、他国の皇族はすっくと仁王立ちしているかんじ、かたや我が国の天皇ご夫妻は、頭(こうべ)を垂れて祈る姿が、自然と目に浮かぶのです。読み進めていく中で、このイメージはさらに強くなりました。

 敗戦後、A級戦犯への起訴は1946年 4月29日、判決がくだり、実際に処刑がおこなわれたのは1948年 12月23日。つまり、起訴は昭和天皇の誕生日、処刑は明仁天皇(当時皇太子)の誕生日に重ねられていました。連合国は、わざとこの日を選んだそうです。読んで初めて知りました。これはエグい。
 それから一年とたたない翌年の春、多感なはずの十五歳だった明仁天皇(当時皇太子)は、高校の英語の授業で自分の将来について書くこととなり、"I shall be Emperor." と書きました。そこにあったのは、漲る闘志ではなく、明るい希望でもなく、悲壮な覚悟だったのでは、と思います。
 若かりし頃より、ご高齢になる今に至るまで、戦争に関する諸施設や激戦地への慰問・慰霊を繰り返し、戦時の敵味方、分け隔てなく頭(こうべ)を垂れる姿。その裏に湛えられているだろう深い悲しみ。そこから紡ぎ出される多くの言葉に胸をうたれました。
 テレビでは「おことば」もごく一部しか流れないためか「天皇の言葉って、いっつも当たり障りの無い定型文だけだよねー」と不遜なことを思っていた身としては、反省しきり。本当は、こんなにもいろいろと想いを語られていたのですね。
 今年(2015年) 、新年の感想、ということで、明仁天皇は以下のコメントを出されました。
 
――本年は終戦から七十年という節目の年に当たります。
――この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています。(本書P84 より引用)
 
 先の大戦は、満州事変から始まった。戦争の歴史をしっかりと勉強してほしい。と明言されています。重責を担いながら、長く慰霊の旅を続ける方からの、何と強いメッセージなのでしょう。
 歴史は大の苦手なのですが、これをきっかけに、学ばなくては、と思いました。
 写真も美しく、著者の綴る解説文も平易な文章で読みやすい。お勧めです。

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