読書感想(ネット) Beku - 君 の 影 を -
異性愛、家族愛、友愛……多くの愛が詰められた、珠玉のホラー ――Beku - 君 の 影 を -(著者:美雨季)
サイト:雨降りと日傘(作品目次)(別窓)
■梗概
次の【ベク】と定められた鈴花は、ある想いを胸に、母が少女時代を過ごした高校に入学する。
そこで出会ったのは……
そして、【ベク】とは――……?
一部暴力的・猟奇的なシーン、大人向けな表現などが含まれます。ご注意ください。[PG12]
(以上 サイト引用)
■キーワード シリアス・親子・恋愛・ホラー
■感想
理不尽な運命を押し付けられ、それを無抵抗に受け入れている主人公の少女・鈴花を、最初はなかなか理解できませんでした。
でも、閉鎖的な集落に生まれ、外の世界を知らずに育ったという生い立ち。自分が犠牲にならなければ大切な人に禍(わざわい)がおよぶ、という逃げ場のない境遇。十五歳の少女には、過酷な運命を受け入れることも、ぎりぎりの選択だったのでしょう。読み進めていくうちに、彼女の置かれた立場がわかり、そこからはぐいぐいと惹き込まれました。
人生を、早いうちから諦めてきた鈴花。彼女が恋に目覚めたとき、少しずつ事態は動き出します。彼女の変化が、日常のさりげないひとコマ、ひとコマに滲み出ていて、それがやがて大きな力に対峙しようとする意思にまで成長する流れが、とても自然でした。作中での小物づかいや伏線のきめ細かさも、見事です。
物語設定は、伝承を絡めた陰惨なホラーなのですが、そこで生きる主な登場人物たちは皆、凛としていて魅力的です。そして愛情深い。親子愛、友情、異性愛、いくつもの愛が重なり合っていて、奥行きがあります。物語の着地点もうまく、切ないながらもカタルシスのある読後感でした。
2011年 第4回アルファポリス ホラー小説大賞・特別賞受賞。納得の作品です。